森山さん(仮名)は、S状結腸癌を患っている80代の男性です。
訪問診療を始めて半年が過ぎました。
黄疸が強くなっています。
ここ数日、うとうととしていることが多くなってきました。
小さくノックをして、部屋に入ります。
眠っています。
しばらく声をかけずに、呼吸状態を観察します。
いつものように声をかけて血圧を測りますが、今日は目を開けてくれません。
「30分前に、オプソ※1飲んだんよ」と奥さん。
(※1オプソ内服液:一般名モルヒネ塩酸塩水和物 癌の痛みを抑えるための速放性のモルヒネの液剤)
あまりによく眠っているので、先生は診察を終えて、声をかけずに帰ろうとします。
目が覚めると、きっと『今日は先生が来てないか?』と言うだろうなぁと、、、
帰る前に、もう一度声をかけるかどうか迷っていると
奥さんが「ちゃんと(先生)来てくれてたっていうから大丈夫よ」と。
翌日です。5時にオプソを内服していました。
そーっと部屋に入っていきます。
こちらに背を向けて、眠っています。
少しすると。。。「来てくれたんか?」と。
目は閉じたままですが、しっかりとお話はできます。
(体温、血圧、脈、浮腫の状態など観察していると)
森山さん 「昨日、、、黙って帰ったやろ」
私 「ごめんねぇ。。。そうなんよ。あまりに、すやすや眠ってたから起こすの悪いなって思ってね。
先生はちゃんと診てくれてたよ」
森山さん 「先生は、今日はまだか?」
私 「来てるよ。今、奥さんとお話ししてると思うよ」
森山さん 「そうか。。。(訪問)看護師さんたち(ケアマネージャー・ヘルパー・理学療法士・薬剤師)も
本当によくやってくれるんや。でもなぁ、やっぱり先生の顔見たら安心する。
最後はやっぱり石田先生の顔、見やんと締まらんわな」
右の肺がほとんど動いていないので、左側や上を向くのが辛くなっています。
寝ている時間が長いので、身体もだるく、黄疸による痒みもあります。
背中(右の肩甲骨の下)を圧して、マッサージをします。
森山さん 「ようわかってるな。流石やなぁ。そこや、そこ。。。気持ちいいわぁ」
私 「おほめ頂きありがとう」
そんなやり取りをしていると、先生が部屋に入ってきたので
「森山さん、先生来てくれたよ。代わるわね」と声をかけます。
先生が森山さんの顔に近づいて声をかけますが、目は閉じたまま。。。
「森山さ~ん。目を開けて、先生の顔 しっかり見ておいてよ~」と大きな声で言うと
振り返って、ぱっと目が開きました。
先生の顔が、真正面にあります。
目を合わせて…
ニ拍手して合掌。。。 「先生、ありがとう」と言って、すぐに目を閉じました。
(この様子をみていた奥さんと私は、思わず笑ってしまいました)
先生が「よう頑張ってるよ。落ち着いてるし、明日(は土曜日だから訪問診療を)休んでいいかい?」と言うと、
森山さんは、先生のその言葉に慌てた様子で、もう一度、目を開けて一言。。。
「そりゃ。。。困るわぁ😭」
先生は「わかった。わかった。また明日来るわな」と、訪問を終えました。
1週間前、急激に肺の状態がかなり悪くなり、森山さんとご家族の希望で、今は毎日訪問しています。
森山さんにとって、先生の存在は、何にも変えがたいのです。。。
(「オーラあるなぁ」と言ってもらっただけあります。ありがたいことですね)
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